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学園青春ADV
CROSS † CHANNEL( 2003/9/26  FlyingShine )を認知心理学で読み解く


※核心に触れるネタバレがあります


 

まず初めに示しておくのだけど、私は精神分析的に、あるいは認知心理学的に物語を解釈するということを、前に取り扱った作品と同一のシナリオライター「田中ロミオ」(旧名義「山田一」)に対しおこなう。また過去出されたエロゲの中でもトップクラスに評価の高いこの作品と、そのシナリオライターである田中ロミオが、それ以降のサブカルチャー全般へ与えた影響は計り知れないところがあり、今現在における一つの潮流を作り続けているということも事実として付け加えておこう。

では、この物語をなるたけ端的に説明したい。舞台は現代日本。ある時期から精神に異常をきたす少年少女が急増し始めた。主人公「黒須太一」を含む八人の障害者たちは、実質的な隔離施設である群青学院の放送部メンバーであった……がしかし、やがて彼らは個々の持つトラウマ(そのことを彼らは「群青色」と呼ぶ)を元に傷つけあい、その関係を破綻させてしまう。そうした状況に置かれた太一は、SF的に別世界(一週間単位でループする世界)を観測し、放送部メンバーをその世界へと連れ込んでしまう。生物のいない閉じた世界。繰り返される一週間。その中で仲間たちとふれあい、衝突し、そして和解してゆく。最終的に太一は、仲間を元の世界へと送還する一方で、たった一人。自分だけは、別世界に残る決断を下す。

一般に評されるところと言えば、たとえば「プレイヤーは感情移入を拒絶されながらも、一方で物語に引き込まれてゆく」 「断片的に飛び出すキーワード、不可解な行動。それはミステリーや伝記物のそれとは違い、純粋に違和感」 「人を貶める、けなすような表現の多さもそうだが、とにかく主人公の言動が問題。とにかく下ネタのオンパレード」 「ロリコンは病気です」といった次第である。また量子力学における観測問題などを用いているところから、世界解釈やその他さまざまな問題について、多くの論争が為されている。……のだが、さて本論においては、プレイヤーに対する情報の与え方――とりわけ自己投影の対象である主人公「黒須太一」との間に置かれた情報格差、という観点から論じていきたい。

いきなり逸らすが、時系列に沿って物語外の情報からいこう。発売前のデモムービーと体験版、そして本編におけるOPムービーである。まずデモムービーの段階で、既にある仕掛けが為されているのだ。というのも、このムービーは初めダークな電子ベース音と暗い画で始まるが、少しすると突然青空のパンアップと共に軽快なメロディが流れ始める。情報を段階的に示すことで、後者の情報(この場合は嘘)に信憑性を持たせる手法である。また体験版の途中では、いきなり場面が学院の廊下へと飛ばされたかとおもうと「世界は滅亡してしまったのだ!」などと太一が言い出し、なぜか登場したヒロインが「じつは、このパートは未実装なのです」 「……んー、エヴェレット解釈ってしってますます?」などと言い始め、そのうち「本編には収録されないから、パロディ盗作しほうだい!」といったメタくさいネタが展開されてゆく。この辺りを見て『CROSS † CHANNEL』をギャグゲーと勘違いした人間も少なからずいるようである。しかしおどろくべきことに、物語の核心となる部分、最もネタバレとなってしまう一部分に関しては、上にある台詞の通り、なんとこの時点で語られているのである。他にはたとえば、そこに「ごめんなさい先輩……自分がすごくかわいいので……」というヒロインのセリフもあるのだけど、これは他人に対する共感が欠落しており、常軌を逸した深い自己愛を抱えた彼女の「群青色」を示す伏線となっているのだ。では実際にゲーム本編で流れるOPムービーの方はどうなのかというと、こちらはピアノによるニューエイジ風ミュージックと共に学院の風景が延々流されるという、おそろしく淡白かつ無機質なものとなっている。これは真に物語を(ぼかした状態で)意味していると言えよう。ここに至ってもなおこの作品をギャグゲーだと考えている人間は、そういなかったはずである。そうした度重なる情報の書き換えによって引き起こされる、違和感と再認識。そして文章の秀逸さも相まって、プレイヤーは物語世界へと引き込まれてゆくのだろう。人によっては、前半を退屈だと言ったりもするのだけど。

次に、太一とプレイヤーの情報格差についてである。太一は自らのトラウマを知っているが、プレイヤーはそれを一切知らない。だから登場人物が時折なにやら意味深な発言をするが、プレイヤーにはそれがなんのことを言っているのかさっぱり判らない。そうした純粋な情報はもちろんそうだし、それどころか太一のモノローグ自体が、もう理解の範疇にあるかどうかあやしい。冒頭からして太一は、自分が住んでいる街のことを長々と語り出す。ようやく女の子が登場したかとおもえば、結局それは太一の妄想に過ぎないらしい。その後エロゲーよろしく日常描写が開始されても、太一の脳内は意味不明な言葉と下ネタでいっぱいである。さらには登場した幾らかの人々が、実のところ太一の回想や妄想の中にしか存在していなかったりするのだ。二十歳にも満たない太一のお母さんが出たり消えたりパンチラしたりと、もはや現実と夢の区別さえ付かない状況である。極めつけがこれだ。作中の白と青を基調とする淡白さに反して太一は、赤い血を見ると突然発狂し、なにやらヒロインを犯したり殺したりしてしまうのだ。そうしてプレイヤーは、太一との同一化を強烈に拒まれてゆく。こういったところが「この作品は人を選ぶ」と言われる所以である。

さて、このゲームには徹頭徹尾、上で述べたような拒絶があるのだけれど、しかしループする一週間をくりかえす内に、当然ながら少しずつ太一やヒロインたちの過去、そして「群青色」が明かされてゆく。ここで重要なのは、太一の持つトラウマの性質である。そこにはちょっと御都合主義っぽいところもあるけれど。……つまり、太一は幼少のころ屋敷で飼われており、そこにいる大きなお友達によって輪姦されていたということである。したがって彼はどこか乖離性同一性障害(多重人格)のようなところがある。少なくとも二面性。また、彼は人間として成立しておらず、言うなれば化け物が人の皮を被って生きているような存在なのである。外から見て正常であるとき、太一はいつだって人間に「擬態」しているのだ。彼は人が笑うのを真似して、適当な場面で口角を吊り上げているに過ぎない。その「群青色」が解消されるのは、物語のラスト。仲間たちを元の世界へ送還したところで、初めて人間になれるのだ。太一は、世界でたった一人になり、そこでようやく普通の人生を獲得できるのだ。……といったところなど、たとえば精神分析的に見て、疑問に思わないこともないのだけど。とかくそうした終盤に来て初めてプレイヤーは「ああ、太一ほどではないにせよ、自分にも原初的にこういったところがあるなあ」として、自己を投影してゆくのだ。この時点で、ようやっとプレイヤーは懸命に生きようとする太一の姿がいかにすばらしいものであったかに「気づき」、胸をいっぱいにするのである。全体として情報の流れは、序盤が舞台設定、中盤がヒロイン、終盤が太一と分かれているが、やはり終盤に近づくほど重大な情報が集約されている。というのは、たとえば中途における通称「ロミオ節」が、終盤に至ってから改めてプレイヤーに認識され、その効力を最大限に引き出すためである。確かにあやしいところはあるけれど、それをさしおいてもすばらしい。以下にロミオ節の一部を記す。「友情は見返りを 求めない」 「強くならないと生きる資格がないわけじゃないから 弱いままでも、いいんだよ」 「人生は難しいですこんちくしょうという感じです」 「自分の心を、他者に仮託するな!」 「私は太一が人だとは思ってないもの 太一は太一。私にはそれで十分。そして私も私。二人で一人」 「自分に生きる資格があると思っているんですか?」 「人間は本質的に一人だ。一人で生まれて、一人で死んでゆく」 「生きている人、いますか?」

最後に、本編の後における物語外の情報を二つ挙げる。一つ目はEDテーマの『CROSSING』である。極めて珍しいことにこの曲は、作詞をシナリオライター(この場合は田中ロミオ)が担当しているのだ。「絶望で良かった 虚無だけを望んだ」から始まり「世界と自身とを分かつ壁は 人を象り閉じ込める檻」「そしていつかは寂しさから手を伸ばし 優しく傷つけ合って」とつながってゆくこの唄は、物語全体を俯瞰するにふさわしいと言える。なんという気合の入れよう。二つ目は『トモダチの塔』というシナリオ(1)である。ここでは太一の発狂がさらに酷い。楽しく会話しているかと思ったらいつの間にか殺しているし、殺した先輩が妄想でいきなり妹になっており、しかもその死体を自転車の後部座席へ縛り付けると、二人仲良く登校してしまう。一方で生きている人とは言語ゲームを成立させられず、ただ一週間前の台詞を機械的に発していたりする。そのうち犯してから殺したのか、殺してから犯したのかも判らないまま「トモダチ」にして、死後硬直した肉体をもって放送用のアンテナを組み立てたりしてしまう。これがいわゆる『トモダチの塔』である。とはいえ、すべてを知った上でこのシナリオを読んだならば、人は過激さの裏にある潜在的な意味を与えることができるだろう。

 

1 公式設定資料集に掲載された、本編未収録の没シナリオ。おそらく、ループする一週間の内のひとつが描かれている。時系列としてはさして終盤でないにもかかわらず、物語の核心を突くようなネタバレがひどく、残酷な描写も熾烈を極めるため除外されたと思われる。プレイヤーに与えてはならないと判断された情報であろう。



文責 : inozi

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